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映画『モテキ』が本日初日公開です!

こんにちは。

編集長の稲田です。

本日9月23日より映画『モテキ』がいよいよ公開、上映が始まってます。

いま調べたら、都内だけですごい館数なんですね。

ほんの少しだけ関わらせてもらった者として、なんだかわが事のようにどきどきです。

老若男女あらゆる方におすすめ出来ますが、本誌読者の方には特に観ていただきたいので、この三連休はぜひ劇場へ足をお運びください。

作品についての個人的感想は、いま発売中の10月号に書きました「モテキ新聞・社説」で書き尽くしていますので、以下転載します。

日本のカルチャールネッサンス、『モテキ』

映画『モテキ』を観て思ったこと、それはなにをおいても本作が青春映画であるということだ。2011年を生きる若者達を描いた実に真っ当な青春映画。そして真っ当であるがゆえに、画期的かつ新しい日本映画たりえている。

ストーリーは、完全なるボーイ・ミーツ・ガールもの。これまで何万回となく映画の中で繰り返されてきたはずのストレートなラブストーリーであり、そして森山未來演じる主人公、藤本幸世の成長物語でもある。彼、通称フジくんは、漫画/ドラマ版までのフリーターから一念発起してポップカルチャーサイト:ナタリーの音楽ライターとして就職をするところから物語は始まる。ツイッターを通して知り合ったみゆき(長澤まさみ)はカルチャーマガジン:EYESCREAMで働く音楽担当編集者。幸世は思わせぶりなみゆきにすぐさまノックアウトされ、他のモテを度外視して一途に彼女を追いかけるわけだが、その過程で、小誌を含む実在のメディア、お笑い番組、コミック、ミュージシャンなどの情報がわんさと画面やセリフから溢れ出てくる。そして、そうしたカルチャーをめぐる“村”の線引きが、生きるフィールドおよび恋愛において意外なほど大きなファクターとして作用する局面があることを、もう一人のヒロインともいえるみゆきの友達るみ子(麻生久美子が熱演!)との絡みや修羅場で大根監督は明快に示してみせる。

さらに画期的なのは、劇伴される既存楽曲の使われ方だ。タイコクラブやセンスオブワンダーといった実在のフェスやリキッドルームなどのライブハウスが登場し、TOKYO No1 SOULSETから女王蜂、N’夙川BOYSに至るまで劇中ライブシーンは盛りだくさん。フジくんが新米音楽ライターという設定だからでもあるが、音楽好きなら、普通にこれくらいライブには触れてるよね?という自然な流れで現場の空気感が演出されている。そして、直接ライブで音を浴びなくても、日常シーンで脳内BGMが流れる事は音楽ファンならしばしば。Perfume本人たちが登場するミュージカルシーン(ビョーク×スパイク・ジョーンズの名作MV“イッツ・オー・ソー・クワイエット”へのオマージュでもある)など、日本映画の枠を超えたポップカルチャー史に残る一事件として記憶されるべき屈指の名シーンだろう。

では、これら以上の固有名詞、カルチャータームが意味するモノはなにか? そして、それらすべてを含んでなお普遍的な青春/恋愛映画たりうる『モテキ』のマジックとはなにか? それは端的に言って、大根監督、そして原作者・久保ミツロウ、そしてプロデューサー・川村元気という奇跡のトライアングルから生まれた、“日本のカルチャールネッサンス”であったと筆者は思う。“カルチャー”と括ると大げさに聞こえるかもしれないので、J-POP以降の成熟した日本のサブカルチャーという意味で、ここでは“Jポップカルチャー”としておこう。日本の漫画、ドラマ、映画、そして音楽……そしてツイッターに代表されるヴァーチャルなコミュニティとロックフェスに代表されるリアルな現場。すべて、今だ。同じ空気だ。そんなJポップカルチャーすべてに囲まれてリアルタイムを生きる“普通な僕ら”の“普通の恋愛/青春”を“普通に描いた漫画/ドラマ/映画”、そしてそこでリアルに鳴っているだろう“普通のサウンドトラック”が、これまでの日本にほとんどなかった。それらすべてを一気に串刺しにしたのが『モテキ』であり、2010年から11年にかけての激動する時代にあっては、それを完遂するためには大根監督言うところの「撮って出し感」、つまり異例なまでのスピード劇場公開がどうしても必要だった。

初監督作にして最大級の打席に立つことになった大根仁は、自分が愛するサブカルチャーへの理解と愛、そしてそこに殉じる覚悟と引き替えに見えてくる掛け替えのない現在の輝きへ狙いを絞ったかのようだ。今この瞬間の刹那に賭けてみることで、逆に浮上する普遍性、エバーグリーンへと転化しうるスペシャルな何かを、映画第一作で成し遂げようとしてみせた。そして『モテキ』は、それを見事にやってのけた僕たちの“心の名作”最新版だ。ちょうど、本作で23曲も劇伴される、沢山のJ-POPの名曲たちがそうであるように。