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東京国際映画祭『ドッグ・スウェット』

『ドッグ・スウェット』(原題:Dog Sweat)
監督:ホセイン・ケシャワルズ/2010年製作/イラン

イランはテヘランに住む若者6人をドキュメンタリー・タッチで描がいたイラン映画。既婚男性と不倫をしているフェミニスト女性、肉体的に親密になれる場所を求める恋人たち、見合い結婚を余儀なくされるゲイ、摘発の危険にさらされる女性ポップ・シンガー、母親を事故でなくしたことからイスラム原理主義者を激しく非難するようになった青年などなど、イランに暮らす等身大の若者を濃縮してまとめている。

本作を通して気になったのは、その撮影方法だ。ドキュメンタリー・タッチという手法を選んだが故に物語を淡々とさせてしまい、せっかくのドラマティックな設定が弱まってしまったように感じた。とは言え、社会問題を扱う上でドラマティックな過剰演出は求められず、むしろ淡々とありのままの現実を映し出すことに重きが置かれる。

そこで浮上するのは、なぜ本作をストレートにドキュメンタリーとして撮らなかったのかという疑問だ。取り扱うテーマが現実のものであればドキュメンタリーとして撮れば良いだけのこと。その方が説得力もリアル感も醸し出されるだろうし、あるいはドラマティックさだって自然と出てくることだろう。

しかしイラン情勢を振り返れば、本作で取り上げるテーマに沿った人間をそのまま登場させられるほど状況は宜しいと言えない。下手したら、逮捕されてしまう者も出るだろう。そんな中で、少しでもリアルにイランの今を描がこうとすれば、“ドキュメンタリー・タッチのフィクション” という結論に至るのは自然なこと。ドキュメンタリー・タッチへの違和感を振り返る中で、そうしたホセイン監督の葛藤が垣間見られた気がする。

ここまでは勝手な想像に過ぎないが、少なからず当たっている部分もあるはずだ。ドキュメンタリーすら満足に撮れない社会で、それでも藻掻き、問題を提示しようとするクリエイターの未来は、こうして海外で作品公開されることで切り開かれていく。少しでも多くの日本人に観られるよう、日本での正式公開を祈りたいものだ。
(小菅智和)

東京国際映画祭|ドッグ・スウェット
http://www.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=93