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東京国際映画祭『そのカエル、最凶につき』

読者のみなさん、こんにちは。EYESCREAM編集部のTomoです。まだ10月だというのに、異様な寒気が訪れていますね。昨晩、僕は “羽毛布団+湯たんぽ” のコンボでなんとかしのぎました。週明けからは平年並みの天候となるようなので、それまでは風邪を引かないように気をつけて下さいね。

さて今日は、先週土曜から開催中の〈第23回 東京国際映画祭〉の話題を。言わずもがな、世界各国からホットな作品の集まる映画祭のことですが、本映画祭でしか今のところ日本では観られない最新作品を少しでもお伝えできれば!ということで、今日から数回に分けて〈東京国際映画祭〉で上映された作品のレビューを掲載することにしました。

『そのカエル、最凶につき』
監督:マーク・ルイス/2010年製作/オーストラリア

最初の1本は、オーストラリア製のドキュメンタリー。オーストラリアというと、世界的に貴重な動物がワンサカいる国として有名ですね。“ブラックヘッドパイソン” 、 “ウォマ” 、 “マツカサトカゲ” と、ここ日本では垂涎(すいぜん)の的とされる爬虫類がいるんですけど、ズグロパイソンなんてアタマだけが真っ黒だから “ズグロ” と言……おっと、すみません! 個人的な趣味の話に走ってしまいました。とにかく貴重種が生息することで知られる国、オーストラリア。しかし本作は、元々そこの住民ではない或るカエルの一族にまつわる物語。

物語の始まりは、1930年代のオーストラリア。サトウキビ畑を荒らす害虫に悩まされていた農民たちは、当時その害虫の天敵とされていたオオヒキガエル102匹を南米からはるばる持ち込みました。しかし所詮は野生の生き物、人の言うことなんて聞きません。オーストラリアに外敵のいなかった彼らは爆発的な繁殖力とスピードで広がっていきます。最悪なことにはこのカエル、危険を察すると皮膚から猛毒を発射するんです。時には、ペットの犬がこれを噛んで瀕死に陥ってしまう事件まで起こりだす始末。

“さあ、困った!”ということで、オーストラリアの人々はこのカエルをさも悪魔の落とし子であるかのように忌み嫌い、見つけては殺処分しだすワケなんですが、本編ではそんな怪事件に出くわした人々のインタビューが時折映し出されます。カエルによって自身のサトウキビ畑飼を台無しにされた農夫、飼い犬がカエルを噛んで瀕死に陥ってしまった夫婦、カエルで一儲けしようと試みた男といったように、それぞれヘンテコな経緯を経た人ばかりなんですが、そんな彼らの話以上に気になるのは、“彼らが取材を受けるポーズ” でした:イスに座った状態で、何故か真っ正面からカメラを直接見つめる姿勢で撮影されているんです。ドキュメンタリーで人をインタビューする際、通常であれば目線をカメラから反らした角度、つまりはナナメから撮影されていますよね? そうすることでインタビュー相手はリラックスして話せるものなのですが、本作はその伝統手法に従っていません。それって、観ていると気になってしょうがないほどの違和感があります。観てないものを想像しろというのも難しいところですが、ちょっと想像してみて下さい:2本の腕がヒザに向かって多少折り曲がりながら下りている姿……これって、なんだか “カエルのポーズ” っぽくありません? 一部の人物に至っては、タルんだ顔までもが段々カエルに見えてきて、今にも飛びかかってきそうです!

ありとあらゆる手段でオオヒキガエル殺しに明け暮れ、時には憎しみを伴った快楽すら感じているかのように、この騒動を自身の体験を踏まえて語る彼ら。そんな人々を敢えてカエルポーズで捉えることで、マーク監督は人間の残酷さを写しだそうとしたのかもしれません。人はカエルを殺せても、カエルへの憎しみを語る “カエルみたいな” 人たちを殺すことは出来ませんものね。

それにしてもこんな怪事件、“オオ” はつかなくともヒキガエルのいるここ日本でニュースに取り上げられても良いハズですが、恥ずかしながら僕は全く知りませんでした。どこかで聞いた覚えのあるような邦題の本作ですが、その中身はというと、ズグロパイソンのような生き物を生み出すといった(何度も出してすみません笑)独自の進化を経たオーストラリアよろしく、独創性と皮肉の効いた怪作。日本での正式公開が待たれます。(小菅智和)

東京国際映画祭|そのカエル、最凶につき
http://www.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=173